80年前の黒漆向付けをクリーニングする

NHK"世界はほしいものであふれてる"番組を観ました。
8月27日木曜日放送分です。
日本の台所用品とそれを作る人たちの特集でした。
番組司会者の三浦春馬氏が持参した2年前から使っている漆塗りのお碗について「経年美化」という言葉を使って変わりゆく色や形を美しく表現していました。
黒塗りのお碗と溜塗(ためぬり)の2つお碗、素敵だったなあ。
「経年劣化」ではなく「経年美化」
人工の材料で作ったものは新品の時が頂点です。
天然の材料で作ったものは使うごとに味わいが増し、磨けば光り輝いてきます。
新品の時はひよっこです。
素材の持つ美しさを感じられるのは伝統的な技術を活用しているからです。
わたしが漆に本格的に取り組むようになってから3年になります。
それまで人工樹脂に取り組んできたおかげで天然と人工の違いが詳細にわかります。

味が出てくることを良しとする「経年美化」=「骨董美」でしょう。
これは「もののあはれ」とは違う感覚だと私は思っています。

「経年美化」は本質をみています。
キズがあっても新の時にはなかった美を持っていると感じます。それにより艶を増します。風格としてみているのです。
これは総合的にみていることであり、それは本質をみているということになります。
本質をみているとは、「もののあはれ」ではなくなります。
「もののあはれ」は現象をみています。変化していくものの中に情緒的さにひっぱられていきます。


|修理前と修理方法

80年以上前に作られた黒塗りの向付けを4点預かっています。
クリーニングしました。
長期間しまわれていたため漆に付着した汚れにカビが生えています。漆には防カビ効果があるのでカビないのですが、表面に洗いきれていなかった食べカスにカビが生えました。その上長期保管、この環境にカビは大喜びです。
何年も長期間保管しっぱなしはよくありません。
私は、使ってください、変化を楽しんでください、とお伝えしています。
漆はアルカリ性、酸性に強いんです。アルカリや酸を敵だと思っているからです。
しかし水や油は敵と思っていないから安心してしまう。受け入れちゃうんです。だから染みになってしまいます。
それを防ぐには使い終わったら洗剤で洗ってすぐ乾いた布巾で拭きます。水気を取ってあげれば油物や汁物を盛っても大丈夫!
使い終わったあとどうすれば良いか?がわかっていれば使うのは怖くないでしょう。
さて、この向付けに何を盛りましょうか。

海外の美術館に保管されている漆器を大事にするあまりオイルで拭いているのを見ますがあれは正直言ってよろしくない。誤っています。油物は人間も好きでしょう。カビも大好きなんです。人が食べれるものはカビも好みます。
オイルで表面をおおえば乾燥を防げると思っているからでしょう。ピカッと光沢も出ますしね。
美術品は日常使いできませんから紫外線から守り、湿度管理をしっかりして環境を整えるよりありません。
漆が心地よいとおもう環境に置かれた場合、1000年でも2000年でも美しさを保つと言われています。自然界最強の塗料です。

FIVETREES

ファイブツリーズは三重県の太平洋が美しい伊勢志摩に工房を構えています。金属やべっ甲や漆などさまざまな素材を使用したオリジナルのジュエリー制作と陶磁器を金継ぎで修理そして天然の漆を使って器を中心に修理する金継ぎ塾とワックスを削って細工するジュエリー制作塾を開いています

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