象彦製のうるし丸盆修理

京都「象彦」の丸盆を修理しました。

伊勢に喫茶のあるギャラリーを営む「ギャラリー楼蘭」の店主から依頼されました。
預かった時、「娘が気に入ってて使っていたら欠けさせてしまったの」ときいていました。
修理後の盆を持ってあがると、「主人が大学でお世話になった教授から頂いたものなのよ」と話していただき、今は亡きご主人の形見を修理できたことをありがたく思いました。
欠けてしまってからは、欠けが気になって使いづらくてしまわれたまま出番がなかったそうです。
塗りのもの全てに当てはまる事象ではありませんが、一般に塗りものは漆が剥がれてしまうとそこが目立って見苦しい。
木地そのままの盆、あるいは拭き漆の盆であれば傷も経年美ととれますが、塗りものでは経年劣化と受け取られがちです。

漆が剥がれて木地が見えているものは、そこから水分が入ると木地が膨張して表面を持ち上げたり陥没したりと「暴れ」てしまい、表面に塗ってある漆にも影響をおよぼします。
木地師がひきものに使う木材はよくよく乾燥させてあるのでそこに水分を与えたら当然、大暴れしますよね。
それは天然の素材である証です。

いろいろ気を使うのは面倒だといって少々粗雑に扱っても平気なステンレス製やプラスチック製のものを使う。フォークやナイフを使うからお上品、高文明かといえば私はそうじゃないと思います。"包丁でさばきながら飯を食らう"と考えたらそうとう乱暴な食卓を思い描きます。
日本食がとても美しいのは食べる人が美しく食べることができるように細やかな配慮があるからだと思います。それは食材や味付けのことだけではなく、料理を盛る器や箸、その場のしつらえ等すべての精神が哲学としての美学を日本文化の中に確立していったのでしょう。
日本古来からの神道である伊勢神宮は毎日食事を神様に供えます。その食べ物を入れる器がプラスチックやステンレスだったら違和感がありますよね。全く美しくありません。

やはり美学は萎えさせてしまってはいけない。怠惰の蓋をしては、だんだん虚無になっていきます。
気を使わなくて良いから楽だわー。というのも節度が必要に思います。


|修理前と修理方法


生漆で木地固めを終えて、*おが粉を使った錆漆で欠けた箇所を成形していく。
室内でしばらく置いたあとムロに入れてしっかり固める。
中塗りを数回重ねて面一の手前までもっていく。
仕上げは黒呂色漆をぬる。
ムロで固まったら呂色磨きをして艶を出す。

*おが粉:木の粉のこと。この場合、極細のおが粉を使う。

FIVETREES

ファイブツリーズは三重県の太平洋が美しい伊勢志摩に工房を構えています。金属やべっ甲や漆などさまざまな素材を使用したオリジナルのジュエリー制作と陶磁器を金継ぎで修理そして天然の漆を使って器を中心に修理する金継ぎ塾とワックスを削って細工するジュエリー制作塾を開いています

0コメント

  • 1000 / 1000