谷本由子氏作品:花器金継ぎ
"あれ、どこをなおしたんでしたっけ?"金継ぎした花器を持ち主が見て、言いました。
「共直し」技法*を使った金継ぎに対して、特段のほめ言葉でした。6か月お預かりしていたこともあるでしょうけれど、私の心にうれしく響きました。
長期間預かれると、確実に漆をカチコチに固めることができます。
*「共直し」:継いだ箇所を可能な限りまわりに馴染ませて、直した箇所をわかりにくくする技法。
なおったからといって、器が完全に元に戻ったわけではありません。やはり損傷したところは完品と比べると弱いのです。
なおした器を指ではじいて音を出してみても鈍い音のままです。
完品にはもどせません。
これは"生物と非生物の大きな違い"です。
人が骨折してそれが完治したときには骨折する前よりその部分の骨は太く強くなっています。再度骨折しないようにと自然な修復のメカニズムが働くからです。
しかし、非生物であるモノはそうはいきません。
漆で金継ぎされた陶磁器の食器はもう陶磁器ではなく漆器に近いといえます。
熱湯に弱く、電子レンジ、食洗機も非対応です。
そんな現代の便利さに逆らった様式のモノがなんだか魅力的なんですよね、と私の金継ぎ講演会に来られた方が言っていました。
合理的には説明できない「何か」を、私たち人間のこころはとても「愛おしい」と受け取るのだと思います。
•依頼者:「遊華人倶楽部」店主
•金継ぎ修理品:花器〔三重県伊賀市在住陶芸家谷本由子(たにもとゆうこ)氏作〕
•金継ぎ仕上げ:共直し(ともなおし)
|修理前と修理方法
花器上部と花器胴体下部に計3点の欠けがある。破片なし。
「共直し」技法で修理することに決定。
上部は蒔き地と錆漆で欠損部分を作り、下部は欠けが浅いので錆漆のみで作る。
花器上部の欠けに生漆を塗ったところ。ここから地の粉と生漆をバームクーヘンのように重ねて欠損部分の成形をする。
成形途中段階、蒔き地が終わったところ。このあと錆漆をして中塗り漆を塗り重ね、「共直し」仕上げの色漆を塗る。
花器上部欠損部分
くすんだオレンジ色を表現するため、色を作る。下の写真は花器背後の釉薬溜まりを撮影したもの。この溜まり色に合わせていろいろを漆で作り、欠損部分へ塗った。可能な限りまわりに馴染ませるように合わせた。
花器胴体下部
欠損が浅いので、錆漆で「共直し」をした。器の表情に凹凸があるのでそれに馴染ませるようになおした。
漆本来の色がこげ茶色なので花器胴体下部のような色の器はなおした箇所がマーキングしないとわからないくらいにできる。
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